ワスカラン国立公園 熱帯の大氷河地帯
鈴木亮平さんのナレーションで始まるTBSの世界遺産。7月19日で放映されたのは、標高5000mの澄み切った藍色の空と、一生に一度だけ咲く荒涼とした大地に立つ不思議な巨大植物。この夏の暑さから逃げ出したくなる、もうひとつの世界。赤道に近いペルーのアンデス山中にありながら、地球上の熱帯にある氷河のおよそ4分の1が集中するという、世界でもここだけの環境を持つのがワスカラン国立公園です。
この暑い夏、澄んだ夜空や涼しい高地に憧れる気持ちがかきたてられますが、実際に訪れるには標高5000m級の過酷な世界。まずは「どんなところなのか」を、地図と登録の背景から探っていきましよう。
ワスカラン国立公園を地図で場所を確認しました
ワスカラン国立公園は、ペルー中央部アンカシュ県、首都リマから北へおよそ400kmのアンデス山脈ブランカ山系に位置します。国立公園の玄関口となる街ワラスは標高3000mを超える高地の町です。
地図中心:ワスカラン国立公園・ワラス周辺(南緯9.3°、西経77.5°)
ワスカラン国立公園が世界遺産となったのは
世界遺産の登録根拠
1975年にペルー政府が国立公園に指定、1977年に生物圏保護区、1985年にユネスコ世界自然遺産に登録されました。ペルー最高峰でこの公園の名前の由来でもあるワスカラン山(南峰6,768m)をはじめ、6,000m級の峰が30近く連なり、600以上の氷河を擁する、四国のほぼ半分に相当する広大な保護区です。
| 登録年 | 1985年 |
|---|---|
| 登録基準 | (vii)標高2,500〜6,000mの高低差がもたらす氷河・氷河湖・高原・森林など多様な地形と、豊かな動植物相を持つ類まれな自然美 (viii)大陸プレートと海洋プレートの圧力で山々が隆起した、地質学的に重要な見本 |
| 面積 | 約3,400k㎡(四国の約半分) |
| その他の指定 | 1977年 ユネスコ生物圏保護区 |
配慮(自然保護・政治・軍事・リスク)
- 自然保護:絶滅の危機にあったビクーニャがこの公園で個体数を回復させたことから、南米で最も成功した自然保護のモデルケースとされています。メガネグマ、アンデスネコなどの絶滅危惧種の生息地でもあり、乾季(5〜10月)のみ遊牧民の公園内居住が許可されるなど、利用と保護の両立が図られています。
- 軍事:特筆すべき軍事的制約はありません。
- 政治的配慮・リスク:外務省の海外安全ホームページによると、ワラスを含むアンカシュ県は2026年7月時点で危険レベル1「十分注意してください」の地域です(ペルー国内の一部山間部・国境地帯にはレベル2〜3の地域がありますが、アンカシュ県はこれに該当しません)。主要観光地では置き引き・スリなど一般犯罪への注意が呼びかけられています。
- 特有のリスク:標高5,000m前後は空気が平地の半分ほどしかなく、高山病対策と事前の高度順応が必須です。また近年、地球温暖化による氷河の縮小に加え、東に広がるアマゾンの森林火災による灰が氷河に降り積もり融解を早めていることが明らかになっており、氷河の消滅が懸念されています。
公園を象徴する生き物・植物
ビクーニャは、ラクダ科の野生動物でアルパカやリャマの野生の親戚にあたります。極めて細く軽い毛を持つため乱獲の対象となり、1960年代には絶滅寸前まで個体数が激減しましたが、ワスカラン国立公園を含むペルー政府の保護政策により回復を遂げ、現在では公園内で群れを見ることができます。この成功例は南米の自然保護のモデルケースとして知られています。

プヤ・ライモンディは、パイナップル科の世界最大の高山植物で、標高4,000m前後の荒野に自生します。生涯のほとんどを球状の葉だけの姿で過ごし、寿命の終わり(一般的に70〜100年ほど)が近づくと、高さ10m前後にもなる巨大な花茎を一気に伸ばして数千もの花を咲かせます。開花後は種を残してそのまま枯死するため、「一生に一度だけ咲く花」として知られています。

ワスカラン国立公園に行くには(時間・手続き)
個人での訪問
拠点となるワラスの街までは個人でアクセス可能で、市内から日帰りツアーやコレクティーボ(乗合バス)を使った個人トレッキングも可能です。ただし、パストルリ氷河など公共交通機関が乏しいエリアはツアー利用が現実的です。
ツアーの有無
| 国内旅行会社 | 西遊旅行など、ペルー専門・南米専門の旅行会社がワラス滞在を組み込んだツアーを取り扱っています。 |
|---|---|
| 現地ツアー会社 | Explorandes、nandi peru(日本人経営)などがラグーナ69トレッキングやパストルリ氷河観光を催行。ベルトラでも「ラグーナ69日帰りツアー」「パストルリ氷河ツアー」がワラス発着で予約可能です。 |
日本からの到着までのルート・日数
TBS世界遺産の番組公式サイトで紹介されている経路は「羽田→パリ→リマ→ワラス」です。それぞれの区間の距離・所要時間の目安は次の通りです。
| 羽田→パリ | 直行便で約9,710km、飛行時間は約14時間30分〜14時間55分 |
|---|---|
| パリ→リマ | 直行便(エールフランス航空)で約10,270km、飛行時間は約12時間15分〜12時間30分 |
| リマ→ワラス | 飛行機で約1時間5分(直行便1社運航)、または長距離バス(Cruz del Sur等)で約7〜9時間 |
- 東京からの合計距離は約20,000km、飛行時間の合計は乗り継ぎ時間を除いておよそ27〜28時間になります。空港での乗り継ぎ待機時間を含めると、実際の移動には丸1日半〜2日程度を見込む必要があります。
- 高山病対策として、ワラス到着後すぐにトレッキングへ向かわず、数日間の高度順応期間を設けることが推奨されています。移動日・順応日を含めると全体で10日前後が目安です。
必要な手続き
- ペルー入国にビザは不要(観光目的、日本国籍者は183日以内)。
- ワスカラン国立公園の入園料は1日30ソル(現地払い)が一般的です。2026年7月時点の為替レート(1ソル=約46〜47円)で換算すると、およそ1,400円前後になります(レートは日々変動するため目安としてご覧ください)。
- 高山病対策(現地での水分補給、コカ茶、事前の医師相談など)は必須の準備です。
ワスカラン国立公園の気候とベストシーズンは
年間を通しての気候
ワラス周辺は乾季(5〜10月)と雨季(11〜4月)がはっきり分かれています。標高5,000m前後の高地は日中でも冷涼で、早朝は氷点下まで下がります。雨季でも午前中は晴れることが多いとされていますが、天候は変わりやすいため防寒・雨具の準備が欠かせません。
アクティビティ別ベストシーズン
| ラグーナ69トレッキング | ベストシーズンは5〜10月(乾季)。標高4,604mまで登るため事前の高度順応が重要 |
|---|---|
| パストルリ氷河観光 | 年間を通じて訪問可能。雨季でも午前中は晴天になることが多い |
| プヤ・ライモンディの開花 | 開花には当たり年・外れ年があり、確実な鑑賞シーズンの特定は難しい。乾季の訪問が観察には無難 |
| 星空鑑賞 | 乾季(5〜10月)は空気が乾燥し澄んでいるため観測条件が良好 |
ラグーナ69トレッキングについて
ワスカラン国立公園を象徴する氷河湖トレッキングです。標高3,800m地点のセボリャパンパをスタートし、標高4,604mのラグーナ69まで往復約13km、所要6〜7時間の中級者向けコース。早朝5時頃にワラスの街を出発し、車で約3時間かけてトレイルヘッドへ向かい、帰着は夕方から夜になる日帰り行程が一般的です。ワラスの旅行代理店やゲストハウスでツアーを申し込むのが最も一般的な行き方で、料金の相場は往復バス代込みで30ソル程度(国立公園入園料は別途)です。氷河の融水を湛えたターコイズブルーの湖面と、チャクララフ峰などの氷河をまとった6,000m級の峰々が織りなす景色が最大の見どころです。

星空観賞:日本では見られない星座
ワラス周辺は南緯9度前後に位置し、南半球の星座がほぼ真上に見える絶好の観測地です。特に以下の星座・天体は、日本国内(東京・大阪など本州)からはほとんど見ることができません。
- みなみじゅうじ座(南十字星):赤緯マイナス58度と非常に南寄りで、東京・大阪からは全く見えません。日本国内で見られるのは沖縄県・石垣島や波照間島周辺が限界で、しかも水平線ぎりぎりです。ワラスのような南緯9度の地では、余裕を持って全景を見上げることができます。
- ケンタウルス座:一部は日本でも見えますが、全体を見渡せるのは沖縄・小笠原諸島の一部に限られます。南十字星を探す目印となる2つの1等星(アルファ星・ハダル)を含む、南半球ならではの見応えのある星座です。
- りゅうこつ座:全天で2番目に明るい恒星カノープスを含みますが、星座の大部分は日本からは地平線の下に隠れて見えません。
- 大マゼラン雲・小マゼラン雲:天の川銀河の伴銀河で、南半球では肉眼でもぼんやりとした雲のように見えます。日本からは基本的に観測できません。
日本でも行ける天体観測地
標高5,000mのアンデスは憧れますが、いきなり訪れるにはハードルが高いのも事実です。「涼しい高地で澄んだ星空を見たい」という気持ちだけを、国内で気軽に叶えられる場所を紹介します。ロープウェイなどで山頂近くまで行けるため、登山経験がなくても楽しめます。
①長野県阿智村「ヘブンスそのはら」
環境省が「星が最も輝いて見える場所」の1位に選んだ星空の名所です。富士見台高原ロープウェイで標高1,400mの山頂まで約15分の空中散歩をするだけで満天の星空にたどり着けます。
富士見台高原ロープウェイ ヘブンスそのはら(長野県下伊那郡阿智村)
②北海道・大雪山「旭岳」
旭岳ロープウェイで標高約1,600mの姿見駅まで一気に上がれる、北海道最高峰の裾野。真夏でも平地より気温が10℃前後低く、高山植物の姿見の池周遊コースは1周1時間ほどの散策路で初心者でも安心です。
旭岳ロープウェイ(北海道上川郡東川町)
③福岡県八女市 星の文化館天文台
「星の文化館」は、豊かな自然のなかで星を楽しめる公開天文台です。九州最大級の口径100cmと65cmの反射望遠鏡を備えており、太陽の表面にある「黒点」などが観察できる全国でも珍しい施設として知られています。館内にはプラネタリウムや天文・宇宙について学べる展示スペースも完備されているため、天候や時間帯を問わず星空の魅力を満喫できます。
さらに、天文台としては珍しく宿泊設備(洋室やカプセルルームなど)が整っており、夜間観測会をはじめ宿泊者限定の特別プログラムや、屋外デッキでの星空観察を心ゆくまで体験できる点も大きな魅力です。
星の文化館天文台 (福岡県八女市星野村)
④沖縄県・石垣島
星空という切り口では少し異色ですが、石垣島は日本国内で数少ない「南十字星が見える場所」です。標高こそ高くありませんが、星座そのものを目的地とするなら、ワスカランで見上げる南天の星座に一番近い体験ができる国内の場所と言えます。ベストシーズンは南十字星が見やすい5〜6月頃です。また、石垣島で星を見るツアーは、島内に数多くあります。「石垣島星空ファーム」や「流れ星の丘」、さらに三線ライブや写真撮影がセットになったプランなどもあります。
石垣島(沖縄県石垣市)
参考情報源
情報源(URL付き)
- UNESCO World Heritage Centre:https://whc.unesco.org/en/list/333
- 外務省 海外安全ホームページ(ペルー危険情報):anzen.mofa.go.jp
- TBS世界遺産 番組アーカイブ(2026年7月19日放送):tbs.co.jp/heritage/archive/20260719
- 環境省「星空を見よう」:https://www.env.go.jp/air/life/hoshizorakansatsu/index.html